Shangri-La 05

05.You Realy Got Me

 明かりも消さぬまま、縺れあうようにしてベッドへなだれ込んだ。破られる前に着ていたシャツを脱ぎ捨て、互いのベルトを不器用に解きあう。蹴るようにジーンズを振り落とし、いつもなら寸前まで履いたままでいるボクサーパンツまで剥ぎ取られた。今夜のスティーブは、何もかもがひどく性急だった。剥き出しの金属の肩を強くシーツに押し付けられ、首筋をきつく吸い上げられる。
それからは、あっという間だった。
「あっ、もう……っ、くそっ!」
熱い手のひらが乱暴にバッキーのそれを扱き、反対の手は後ろの穴を躊躇なく解していく。時折呼吸すらも許すまいとばかりに唇を塞がれ、バッキーは酸欠と隠しようのない興奮でもうほとんど自失状態だった。丸太のような腕に爪を立て、バッキーはただ壊れた玩具のように喘いだ。
「バッキー、バック……もう」
「はっ、この、早漏……っあ!」
情緒の無い言葉を咎めるように、胸の頂きを強く抓られる。血液がぐんと下半身に向かって迸り、もどかしさのあまり腰が不随意に跳ねた。バッキーのそこはもう、スティーブがこれからもたらす強烈な快感を知っている。スティーブの膝がベッドを強く踏みしめ、上等なはずのスプリングが抗議の悲鳴を上げた。その音を聴くと、バッキーの後ろはまたはしたなく疼く。あの快感はこの音のあとにやってくるのだと、従順に馴らされた体は誰よりよく知っているのだ。
「んんっ、あっ……さっさとしろっ、このっ!」
けれど、それはなかなかやってこなかった。
愛撫は性急で熱烈だったくせに、スティーブはいつまでもバッキーの体をただ撫でまわし続けた。前を扱く手と後ろに埋められた指はそのままで、スティーブの固く張り詰めた先端を焦らすように後ろへ擦り付けられる。あと少し、と思うたびにスティーブは愛撫をやめ、バッキーはもどかしさに叫んだ。溢れそうな熱量を逃がすように首を左右に振り、自由な足でスティーブの尻を蹴る。まるで聞き分けのない子どもをあやすような顔をしたスティーブの唇が窘めるように頭皮を這い、バッキーは僅かに残った理性で自分の痴態を恥じた。
「もう、頼むから……スティーブっ!」
けれどスティーブは、そこから少しも動く様子がない。鼻先を擦り合わせるように顔を近付けてきて、涙の乗った睫毛をそっと食まれる。苛立ちをぶつけるように、バッキーは目の前の厚い下唇を噛んだ。スティーブの獰猛な舌はすぐにバッキーの歯列を割り、白く滑らかな歯がバッキーの舌を捉える。
ようやく唇を開放されたころ、バッキーは怒りを込めてスティーブの逞しい肩を殴った。
「クソ野郎! このっ、なんなんだよ……っ!」
我慢の限界をとうに越えたバッキーの鼻がぐずりと鳴った。それをうっとりと見たスティーブが、バッキーの形良い耳殻に歯を立てながら囁く。
「バック、言葉にして。僕が欲しいって……欲しいって言えよ、お前の言葉で」
熱く湿った息を敏感な場所で感じ、バッキーはまた短く、ひきつけを起こしたように喘いだ。お陰でその言葉の意味を理解するまでにしばしの時間が必要になり、ようやく理解したあと、バッキーはまたスティーブの肩を強かに殴った。
「てっ……めえ、どこで、そんな、覚え……っ!」
スティーブには似つかわしくない、ひどく雄臭い言葉だった。同じ男として、その言葉の裏にある様々な欲望を察することはできる。だが察せるからといって、諾々と受け入れられるほどには男のプライドを捨てきれてもいない。
微塵も堪えていない様子のスティーブが可笑しそうに笑い、罰を与えるようにバッキーの右胸をきつく揉む。固く立ち上がった先端はそれだけで震え上がるほどの快感を得て、バッキーは目尻から涙を溢しながら喘いだ。
「馬鹿な疑いはよせって。いいから、言って。……言って欲しいんだ、頼む」
まるで、神の赦しでも乞うような声音だった。不意に背筋を駆け上がった背徳的な気分が、ますますバッキーを昂ぶらせていく。ずるい男だ、そう思った。高圧的に服従を望んでみせたかと思えば、哀れな罪人のように跪いて情けを乞うてもみせる。しかしスティーブの情けなく下がった眉を見たあとでは、もはやバッキーに選択肢などあるはずもなかった。無意識に上唇を湿らせ、目線を泳がせる。それは間違いなく、陥落の兆しだった。
「――スティーブっ、もう、挿れろ……っ! お前が、欲しいっ、から! 頼むから、奥に……っあ!」
勢いよく指を抜かれ、バッキーは白い喉を晒して仰け反った。熱い切っ先が、解してもなお狭い入り口をみしみしと抉じ開ける。
「あーっ、あっ、スティ、ブ……っ!」
歯を食いしばるスティーブの吐息が頬をかすめ、バッキーはふとたまらなくキスがしたくなった。衝動に逆らわず唇を奪い、その吐息まで余すことなく受け止める。そのまま一息に奥まで貫かれ、バッキーはほとんど泣き声のような悲鳴を上げた。
「バッキー、愛してる……好きだ、ああ、好きだよ、バッキー」
がくがくと揺さぶられながら、バッキーもうわ言のように繰り返した。すきだ、おれも、スティーブ、スティーブ、ああ、あいしてる、スティーブ……。
スティーブの熱いほとばしりを奥に感じるのとほぼ同時に、バッキーの視界も真っ白に染まる。久しぶりに、完全な服従の味を思い出した。冷たい言葉と機械などなくとも、バッキーはいとも簡単に全てを捧げられる。体もプライドも、それこそ命さえもだ。今はたった一人、スティーブだけがバッキーをおかしくする。
湿った手で頬をひかえめに叩かれるまで、バッキーの意識はしばらく、幸福な心地でふわふわとした忘我のふちを彷徨った。
「ごめん、ちょっと……やりすぎた?」
「ちょっと、だと……?」
ごめんごめん、と笑ったスティーブが、不意に腕の力を抜いた。ずっしりとした肉体の重みを体全体で受け止め、互いの汗が混じり合う感触を肌で感じあう。
「お前、重いって。しかも汗すげえし……」
そうは言ったものの、不思議と不快さは感じなかった。すっかり柔らかくなったスティーブのペニスはまだ後ろに埋まったままだし、汗まみれだし、重いし、喉は痛いし、どう考えても怒っていい場面だったけれど、バッキーの顔は勝手に笑みを浮かべていた。
「シーツ、お前が洗えよ」
顎のあたりにあるブロンドをぐしゃぐしゃにかき混ぜてやる。スティーブは待てを解かれた犬のようにはしゃぎ、バッキーの手にぐりぐりと頭を擦り付けた。可愛いやつめ、と素直に思った。二人が疑いなく無二の親友であったころ、スティーブはいまよりもっと意地っ張りで可愛げのない男だった。それがどうだ、今じゃまるでちょっと頭の足りない大型犬じゃないか。
しばしあって、満足したらしいスティーブがバッキーの上からどいたので、二人並んで天井を見上げた。付けっぱなしだった灯りが泣き腫らした目に染みる。けれど、暗いよりはいい。何事も。

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