スマートフォンのアラームが朝の訪れを告げる。持ち主のかわりに指をすべらせたあと、ばれないようにこっそり電源を落とした。
いまはもっぱら昼夜の不規則なヒーロー活動に専念しているくせに、サムは毎朝決まった時間に起きる。決まった時間に起き、晴れた日はランニングに出かけ、家に帰ってゆっくりとシャワーを浴び、品数の多い朝食をこしらえ、ミルクのたっぷり入ったラテを飲み、朝刊を読む。だいたいこのとおりの日課を、時間の許す限り毎朝飽きもせずこなす。どきどきジェームズがそれらの遂行を妨げようと不埒ないたずらをしかけるが、大抵の場合はすげなくあしらわれて不発に終わる。
そんなサムを真面目ですばらしい男だと思うか、あるいはとんでもなく退屈でつまらない男だと思うかは人それぞれだろうが、ジェームズはおおむね前者だった。ジェームズは一人暮らしというものをしたことがないから、誰に気兼ねすることのない生活のなかでもきちんと己を律し続けられるサムを素直に尊敬している。でもときどき、もうちょっとだけ刺激を求めてみてもいいんじゃないか、とも思う。
「……なあサム」
こちらに背を向けて眠る男へ呼びかけた。もぞもぞと肩がうごき、眠そうな顔がジェームズを見る。いつもならすぐにでも起き出して顔を洗いにいくところだ。けれど昨晩のサムは珍しく昔馴染みと酒を飲みに出かけ、なにやら相当飲まされてきたらしかった。ジェームズがそろそろ寝ようかというころに騒々しく帰宅した彼と、ひと言ふた言支離滅裂な会話を交わしてから眠りについた記憶がある。
「んん……。なに、腹減った?」
「いや、別に」
「……あー、もう朝か」
「たしかに朝だけど。そうじゃなくて」
今朝のジェームズにはいくつかの提案があった。今日ならば受け入れられるんじゃないかという勝算もある。現にサムはまだずいぶんと眠そうで、まぶたも半分おちかかっている。キュートな目尻に触れるだけのキスを贈ったジェームズは、この機を逃すまいと一息に畳み掛けた。
「なあ、サム。……たまにはこのままベッドの上で、びっくりするほどだらしない一日を送ってみるのもいいと思わないか? ほら、お前はいっつもクソがつくほど真面目に過ごしてるし、たまには少しくらい息抜きしたっていいと思うんだ。なんなら、朝飯は俺が買いに行ってもいい」
さりげなく腰に腕をまわし、つれない恋人がベッドを抜け出さないようそっと抱きしめた。それがかえっていらぬ警戒を呼んだようで、腕のなかで身を捩らせたサムが難しい顔で言う。
「……魅力的な提案だが」
「皆まで言うな。お前が嫌ならセックスはなしだ」
真面目くさった宣誓にサムもたまらず吹き出し、ようやく頑なな態度を軟化させてジェームズを見た。
「じゃあ何すんの? 二度寝か?」
「それもいいな。アラームはなしで」
「それから?」
「それから……ジャンクフードを食べながらタブレットで映画でも観て、飽きたらもっかい寝て、明るいうちからビールを飲む」
「酒はとうぶん見たくもないが……それ以外はなかなか悪くない提案だ」
「だろ?」
珍しく物わかりのいいサムに、ジェームズは己の作戦の成功を確信した。宣言どおりのいやらしくないキスを首筋に何度か、それからママがするようなおやすみのキスを頬にひとつ。案の定すっかり抵抗をやめて眠気に身を任せはじめたサムは、もう憎まれ口を叩く気力もないらしい。つられておおきな欠伸をこぼしたジェームズも、めったに見られない恋人の緩んだ姿と怠惰で幸福な朝の風景をしみじみと噛みしめつつ目を閉じた。それから、とびきりの提案を最後にひとつ。
「……それで、今日の顛末をあとでスティーブに報告するんだ。あいつきっとすげえ顔するぜ」
「嘘だろ、 キャプテンの生活指導つきかよ」
「たまにはいいだろ? ガキみたいでさ」
「ガキって歳かよ」
呆れたふうに笑いながら、サムもたいがい幸せそうだ。
二人はさっそくひとつめの予定をこなすべく、まだ暖かいシーツを頭まですっぽりとかぶった。
いまはもっぱら昼夜の不規則なヒーロー活動に専念しているくせに、サムは毎朝決まった時間に起きる。決まった時間に起き、晴れた日はランニングに出かけ、家に帰ってゆっくりとシャワーを浴び、品数の多い朝食をこしらえ、ミルクのたっぷり入ったラテを飲み、朝刊を読む。だいたいこのとおりの日課を、時間の許す限り毎朝飽きもせずこなす。どきどきジェームズがそれらの遂行を妨げようと不埒ないたずらをしかけるが、大抵の場合はすげなくあしらわれて不発に終わる。
そんなサムを真面目ですばらしい男だと思うか、あるいはとんでもなく退屈でつまらない男だと思うかは人それぞれだろうが、ジェームズはおおむね前者だった。ジェームズは一人暮らしというものをしたことがないから、誰に気兼ねすることのない生活のなかでもきちんと己を律し続けられるサムを素直に尊敬している。でもときどき、もうちょっとだけ刺激を求めてみてもいいんじゃないか、とも思う。
「……なあサム」
こちらに背を向けて眠る男へ呼びかけた。もぞもぞと肩がうごき、眠そうな顔がジェームズを見る。いつもならすぐにでも起き出して顔を洗いにいくところだ。けれど昨晩のサムは珍しく昔馴染みと酒を飲みに出かけ、なにやら相当飲まされてきたらしかった。ジェームズがそろそろ寝ようかというころに騒々しく帰宅した彼と、ひと言ふた言支離滅裂な会話を交わしてから眠りについた記憶がある。
「んん……。なに、腹減った?」
「いや、別に」
「……あー、もう朝か」
「たしかに朝だけど。そうじゃなくて」
今朝のジェームズにはいくつかの提案があった。今日ならば受け入れられるんじゃないかという勝算もある。現にサムはまだずいぶんと眠そうで、まぶたも半分おちかかっている。キュートな目尻に触れるだけのキスを贈ったジェームズは、この機を逃すまいと一息に畳み掛けた。
「なあ、サム。……たまにはこのままベッドの上で、びっくりするほどだらしない一日を送ってみるのもいいと思わないか? ほら、お前はいっつもクソがつくほど真面目に過ごしてるし、たまには少しくらい息抜きしたっていいと思うんだ。なんなら、朝飯は俺が買いに行ってもいい」
さりげなく腰に腕をまわし、つれない恋人がベッドを抜け出さないようそっと抱きしめた。それがかえっていらぬ警戒を呼んだようで、腕のなかで身を捩らせたサムが難しい顔で言う。
「……魅力的な提案だが」
「皆まで言うな。お前が嫌ならセックスはなしだ」
真面目くさった宣誓にサムもたまらず吹き出し、ようやく頑なな態度を軟化させてジェームズを見た。
「じゃあ何すんの? 二度寝か?」
「それもいいな。アラームはなしで」
「それから?」
「それから……ジャンクフードを食べながらタブレットで映画でも観て、飽きたらもっかい寝て、明るいうちからビールを飲む」
「酒はとうぶん見たくもないが……それ以外はなかなか悪くない提案だ」
「だろ?」
珍しく物わかりのいいサムに、ジェームズは己の作戦の成功を確信した。宣言どおりのいやらしくないキスを首筋に何度か、それからママがするようなおやすみのキスを頬にひとつ。案の定すっかり抵抗をやめて眠気に身を任せはじめたサムは、もう憎まれ口を叩く気力もないらしい。つられておおきな欠伸をこぼしたジェームズも、めったに見られない恋人の緩んだ姿と怠惰で幸福な朝の風景をしみじみと噛みしめつつ目を閉じた。それから、とびきりの提案を最後にひとつ。
「……それで、今日の顛末をあとでスティーブに報告するんだ。あいつきっとすげえ顔するぜ」
「嘘だろ、 キャプテンの生活指導つきかよ」
「たまにはいいだろ? ガキみたいでさ」
「ガキって歳かよ」
呆れたふうに笑いながら、サムもたいがい幸せそうだ。
二人はさっそくひとつめの予定をこなすべく、まだ暖かいシーツを頭まですっぽりとかぶった。
