「――で、くれてやったってワケ?」
短く刈り込まれたブロンドの頭がわずかに傾く。ファストフードで膨れた頬が笑みの形に歪み、青い瞳だけがルーの尖った爪先を見た。
「足を下ろせ」
「二回目の結婚式、どうだった?」
「……足を下ろせ」
年代物のフォード・ファルコンの助手席はお世辞にも快適とは言えず、運転席に座る男とは昔からどうも反りが合わない。ダッシュボードに置いた左足で男の視界を遮り、ルーは再び冒頭の問いを繰り返した。
「わざわざキューピッドの真似事までして、まんまとくれてやったってワケだ」
男――ラスティ・ライアンは食べかけのバーガーをペーパーナプキンで包むと、汚れた指を舌で拭いながら肩を竦め「はっきり言えよ」と笑った。「お望みなら」と笑い返し、フロントガラスの向こうでショッピングとは名ばかりの犯罪行為に勤しむオーシャン兄妹へ視線を移す。
「――テスよ。彼女って、そんなにいい女?」
「美人だし、賢い。度胸もある」
「それだけ?」
「そういう女は案外少ない」
「可哀想に。見る目がないのね」
「……そう尖るなよ。今日は随分と機嫌が悪いな」
年長者の余裕を見せつけているつもりなのか、ラスティの顔から薄い笑みが消えることはない。ルーはいつだってそれが気に入らなかった。
「……一度捨てたクセに」
「あれはダニーが悪い」
「よりにもよってテリー・ベネディクトなんて」
「見る目がないのさ」
「美人で賢くて度胸もあるのに?」
「誰にだって一つくらい欠点はある」
完璧な造形の横顔が悟ったふうに言うのを、ルーは以前にも見たことがあるような気がした。
「……ムカつく」
「よく言われる」
「悔しくないワケ?」
「言わせるなよ。そもそも、アイツが俺の物だったことなんて一度もない」
「でも、寝たんでしょ」
「……それは」
「ワオ、やっぱり寝たんだ」
ラスティの顔から笑みが消える。かわりにルーの薄い唇が笑みの形をつくった。
「……俺もそろそろ引退かな」
「そうね」
ラスティの頭が背凭れへ沈み、完璧な造形の横顔が苦々しく歪む。ルーは滅多にないほど愉快な気分でそれを眺めた。
「足を下ろせ」
「嫌だね」
「下ろせって」
「嫌」
「……デビーは」
ラスティの言葉が不意に途切れる。ルーは大人しく続きを待った。彼のことは気に入らないが、彼の言葉には聞くに価する重みがある。
「並みの男じゃ手に負えない」
「そうね」
「お前くらいだ」
「……そう、ね」
「そうさ」
ルーの大嫌いな顔で、ラスティが笑う。何もかも悟った、欲しいものを諦めた人間の顔だ。泥棒がする顔じゃない。
「……やっぱり嫌いだわ、アンタの顔」
はじめて言われた、とラスティが嘯く。この余裕を剥ぎ取れる唯一の男が、通りの向こうから指輪の光る左手を振った。気に入らない。何もかもが気に入らなかった。
まるで未来の自分の惨めな姿を見せられているようで。
