いつにもましてくだらない話
でも、バッキーにはずっと馬鹿みたいにのんきに笑っていてほしいです
でも、バッキーにはずっと馬鹿みたいにのんきに笑っていてほしいです
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シリアル、牛乳、トイレットペーパー。スープ缶に冷凍ピザ。パスタソース、マッシュポテト、チョコバー。ハンドソープに歯磨き粉。
日用品をいっぱいに詰め込んだカートを押し、メモ用紙に書いたチェックリストを上から順に消してゆく。スーパーヒーローにだって日常があり、ウォルマートでショッピングカートを押す日もある。サムはようやくリストの最終行までチェックを入れ終わったことを確認すると、キャプテン・アメリカのシールドを模した紙皿を苦笑交じりに手に取って眺め、ちょっと迷ってからカートへ投げた。
それから、思い出したように衣料品売り場へ向かう。荷物持ち担当として連れてきたジェームズがあんまりいろいろ珍しがって質問攻めにしてくるので、面倒になって「ここで待ってろ」と置き去りにしたのだった。
しかし、だ。案の定、衣料品売り場にジェームズの姿はなかった。
「……おいおい、頼むぜ」
レディースの売り場までぐるりと回ってみてもその姿は確認できず、困り果ててスマートフォンを取り出す。履歴から番号を呼び出し、10コール目までは待った。
これは世界中の多くの年寄りに共通する特徴だと思うが、ジェームズはしょっちゅうスマートフォンを忘れて歩く。電話を携帯するという習慣がないのだ。あるいは、持っていても電源が切れていたり、なぜか機内モードやドライブモードになっていたりする。なんでそんなことになるんだ、と聞いても「知らない」とか「わからない」と首を傾げるばかりで、サムはもうすっかり彼に携帯電話を携帯させることを諦めていたのだった。
「困った爺さんだ」
応答のない通話を切り、はあ、と大きなため息をつく。相手は子供じゃないのだから、はぐれたところでなにか問題があるわけではない。サムの精神がほんのすこし疲れるだけだ。
諦めてスマートフォンをしまい、あてもなく店内を歩き回った。
まさか店員やセキュリティに連れが迷子になりましてと協力を仰ぐわけにもいかない。名前はジェームズ・ブキャナン・バーンズ、歳は百歳ちょっとなんですが見た目はおおよそ三十代ぐらいで、髭面、長髪、左腕が金属製で、背丈は六フィート、ええ、はい、ちょっと目を離した隙に――。
脳裏によぎった間抜けな想像を振り払い、日用品売り場、家電売り場と回り、まさかと思いながらおもちゃ売り場へ向かった。
「――ジェームズ」
「おう。もう終わったのか?」
はやかったな、とジェームズが笑う。そのあっけらかんとした顔に、今日一番のため息がこぼれた。
「まず、それとそれを返してこい」
ジェームズが持つムジョルニアとシールドを指さし、頭痛をこらえながら言った。ムジョルニアはともかく、シールドのほうは家に本物がある。それから、隠すように脇に抱えられていたスパイダーマンのマスクを指差し「それもだ」と続けた。
「嘘だろ」
「嘘じゃない。だいいち、そんなもん被ってなにするってんだ。銀行強盗か?」
「なにもしない。飾っとくだけだ」
「じゃあもっといらねえだろ」
すっかり呆れたサムがそう返すと、ジェームズは「えーっ」と非難がましい声をあげて肩を落とした。そんなに欲しいのか、と目を丸くしたサムを、ジェームズの恨めし気な瞳が睨む。
「欲しい……」
「嘘だろ」
「嘘じゃない」
マジか、とサムが呟く。マジだ、とジェームズが返す。堂々巡りだ。埒があかない。
「……マスクだけだぞ」
結局、折れたのはサムだった。頭痛をこらえるように眉間を揉みながら、歓声とともに渡されたマスクをカートへ放り込む。シールド柄の紙皿のうえに、袋詰めされたスパイダーマンのマスクがばさりと落ちた。カートのなかの紙皿とマスク、それからサムの渋面を一通り見たジェームズが、心底嬉しそうににこにことしながらサムの肩に腕を回し、浮かれた声で言う。
「荷物は全部俺が持つよ」
「当たり前だろ」
「夕飯も俺が」
「明日の朝もだ」
「了解」
このまま放っておけば、キスでもしてきかねない勢いだった。顔の横にある髭面をぐいっと押し返し、レジに向かってカートを押す。飾るだけなんて絶対に嘘だし、夕飯だってどうせカートのなかの冷凍ピザを温めるだけだ。それでも、この子供のように素直な喜びようを見てなお「返してこい」と言える奴がいるのならば、ぜひともお目にかかりたいものだとサムは思った。そう、これが惚れた欲目というやつである。
日用品をいっぱいに詰め込んだカートを押し、メモ用紙に書いたチェックリストを上から順に消してゆく。スーパーヒーローにだって日常があり、ウォルマートでショッピングカートを押す日もある。サムはようやくリストの最終行までチェックを入れ終わったことを確認すると、キャプテン・アメリカのシールドを模した紙皿を苦笑交じりに手に取って眺め、ちょっと迷ってからカートへ投げた。
それから、思い出したように衣料品売り場へ向かう。荷物持ち担当として連れてきたジェームズがあんまりいろいろ珍しがって質問攻めにしてくるので、面倒になって「ここで待ってろ」と置き去りにしたのだった。
しかし、だ。案の定、衣料品売り場にジェームズの姿はなかった。
「……おいおい、頼むぜ」
レディースの売り場までぐるりと回ってみてもその姿は確認できず、困り果ててスマートフォンを取り出す。履歴から番号を呼び出し、10コール目までは待った。
これは世界中の多くの年寄りに共通する特徴だと思うが、ジェームズはしょっちゅうスマートフォンを忘れて歩く。電話を携帯するという習慣がないのだ。あるいは、持っていても電源が切れていたり、なぜか機内モードやドライブモードになっていたりする。なんでそんなことになるんだ、と聞いても「知らない」とか「わからない」と首を傾げるばかりで、サムはもうすっかり彼に携帯電話を携帯させることを諦めていたのだった。
「困った爺さんだ」
応答のない通話を切り、はあ、と大きなため息をつく。相手は子供じゃないのだから、はぐれたところでなにか問題があるわけではない。サムの精神がほんのすこし疲れるだけだ。
諦めてスマートフォンをしまい、あてもなく店内を歩き回った。
まさか店員やセキュリティに連れが迷子になりましてと協力を仰ぐわけにもいかない。名前はジェームズ・ブキャナン・バーンズ、歳は百歳ちょっとなんですが見た目はおおよそ三十代ぐらいで、髭面、長髪、左腕が金属製で、背丈は六フィート、ええ、はい、ちょっと目を離した隙に――。
脳裏によぎった間抜けな想像を振り払い、日用品売り場、家電売り場と回り、まさかと思いながらおもちゃ売り場へ向かった。
「――ジェームズ」
「おう。もう終わったのか?」
はやかったな、とジェームズが笑う。そのあっけらかんとした顔に、今日一番のため息がこぼれた。
「まず、それとそれを返してこい」
ジェームズが持つムジョルニアとシールドを指さし、頭痛をこらえながら言った。ムジョルニアはともかく、シールドのほうは家に本物がある。それから、隠すように脇に抱えられていたスパイダーマンのマスクを指差し「それもだ」と続けた。
「嘘だろ」
「嘘じゃない。だいいち、そんなもん被ってなにするってんだ。銀行強盗か?」
「なにもしない。飾っとくだけだ」
「じゃあもっといらねえだろ」
すっかり呆れたサムがそう返すと、ジェームズは「えーっ」と非難がましい声をあげて肩を落とした。そんなに欲しいのか、と目を丸くしたサムを、ジェームズの恨めし気な瞳が睨む。
「欲しい……」
「嘘だろ」
「嘘じゃない」
マジか、とサムが呟く。マジだ、とジェームズが返す。堂々巡りだ。埒があかない。
「……マスクだけだぞ」
結局、折れたのはサムだった。頭痛をこらえるように眉間を揉みながら、歓声とともに渡されたマスクをカートへ放り込む。シールド柄の紙皿のうえに、袋詰めされたスパイダーマンのマスクがばさりと落ちた。カートのなかの紙皿とマスク、それからサムの渋面を一通り見たジェームズが、心底嬉しそうににこにことしながらサムの肩に腕を回し、浮かれた声で言う。
「荷物は全部俺が持つよ」
「当たり前だろ」
「夕飯も俺が」
「明日の朝もだ」
「了解」
このまま放っておけば、キスでもしてきかねない勢いだった。顔の横にある髭面をぐいっと押し返し、レジに向かってカートを押す。飾るだけなんて絶対に嘘だし、夕飯だってどうせカートのなかの冷凍ピザを温めるだけだ。それでも、この子供のように素直な喜びようを見てなお「返してこい」と言える奴がいるのならば、ぜひともお目にかかりたいものだとサムは思った。そう、これが惚れた欲目というやつである。
