特に続くあてもない大学生AU
手癖なんでしょうが、リビングか飲み屋での話が多い気がします
手癖なんでしょうが、リビングか飲み屋での話が多い気がします
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一年続いたガールフレンドと別れたから。小テストの成績が良くなかったから。所属している演劇サークルの公演で、いい役をとれなかったから。奨学金の振込が遅れたから。自棄になって羽目を外すための理由はいくらでもあった。逆に言えば、自棄にでもならない限り、クリスがこうした学生主催のクラブパーティーで羽目を外すことはめったにない。
DJのきわどい煽りに、ひときわ大きな歓声があがった。ハウリングする寸前、といったような甲高い電子音が鼓膜に刺さり、知らず眉間に皺が寄る。この空間の中で、これほど冴えない表情をしているのは、きっとクリスただ一人きりだ。
冴えない表情はしているけれど、クリスはどちらかといえばモテるほうだ。長身で、ブロンドで、青い目をしていて、スポーツが得意で、実家は歯医者。洒落た服を着ていなくとも、あるいはフットボールやバスケットボールのチームに入っていなくとも、クリスはガールフレンドに不自由したことがない。それで、いわゆる「客寄せ」のような扱いで声をかけられたのだ。普段ならにべもなく断るところだったが、今日はつい魔が差して足を運び、こうして冴えない表情をさらす羽目になっている。
「――クリス! なあ、お前、全然飲んでないじゃないか!」
友人の一人が、そう叫びながらクリスの肩を気安く抱いた。腹を揺らすようなベース音がその叫び声をかき消す。クリスはこれ幸いと聞こえないふりをしながら、逃げるように体を引いた。
「おい、クリスったら!」
追いすがるその声に耳を塞ぎ、そこだけぽっかりと人気のないドリンクブースへと滑り込む。ちょうどフロアが盛り上がっている時間だからか、立ち寄る人間はいても、長居をするものはいない。
コロナのビンを一本貰い、近くのスツールに腰掛けてフロアの喧噪を眺めた。
ただその場にいるだけで酔ってしまいそうなほど立ち込めるマリファナの煙と、めかしこんだ学生たちから香るきついコロンの匂い。うんざりとしながら肺に溜まった息をはきだすと、そんなクリスの様子を面白がるような低い笑い声がすぐ後ろから聞こえた。
「……なにか用か?」
尖った気分のまま振り返り、つっけんどんにそう尋ねる。すると、クリスを笑った男は気分を害した様子もなく、まるで旧知の友人のように隣のスツールへと腰掛けた。
「用がなきゃ近寄るのもダメなの? 厳しいな」
「そうじゃないけど……ごめん、君の顔に見覚えがないんだ。俺たちどこかで会ったことある?」
不躾なその問いに、男は「正直な人だな」と笑って肩を竦めた。
「セバスチャンだ。喋ったことはないけど、同じ授業を取ってる」
「なんのクラス?」
「哲学概論。俺、いっつも後ろのほうにいるから」
その答えに、へえ、と思わず声が漏れる。男のルックスが、お世辞にも哲学などという奇矯な学問に興味のありそうなタイプには見えなかったからだ。遠目からでも目を惹く派手な服装に、クリスとそう変わらないほどの長身。こぼれそうなほど大きな青い目。緩やかなウェーブを描くブルネットに、つんと尖ったちいさな鼻。薄い唇にしっかりとした顎。どこかエキゾチックな雰囲気のある、よく言えばハンサム、悪く言えばちょっと軽薄な感じのする男だ。
「君みたいのがいたら、目立ちそうだけどな」
「普段はもっとおとなしいんだ。今日はほら、パーティーでしょ?」
男――セバスチャンは、自嘲気味にそう言うと、羽織っていた派手な柄のブルゾンを脱ぎ、シンプルなグレーのTシャツ姿になってみせた。もうずいぶんと飲んできたのか、二の腕のあたりまで赤みが差している。
「だったら、こんなとこにいないで楽しんでこいよ」
クリスは、輪をかけて不愛想にそう返した。セバスチャンが動くたびに香るむせかえるようなマリファナの匂いが不快だったせいだ。
「そう邪険にするなよ。……こないだ、君の出てる芝居を観たんだ」
「こないだって、先週やった『お気に召すまま』かい?」
「それそれ」
セバスチャンは落ち着きなく足を揺らしながら「この世は舞台、男も女もみな役者だ」と劇中の一節をそらんじて見せた。
「……本当は、ジェイクィズをやりたかったんだ」
いましがたセバスチャンがそらんじた台詞は、ほんとうならクリスが舞台の上で言いたかった台詞だった。
「君のオリヴァー、すごくよかったと思うけど」
「そいつはどうも」
「傷心の原因はそれ?」
「……傷心って」
つい口ごもったクリスを、セバスチャンがにこにことしながら見つめる。
「見たらわかるよ。なんか、悲劇の真っただ中って顔してるもの」
「そういう君は、とっても楽しそうだ。この世の春を謳歌してるって感じ」
「そうでもないよ。ちょっと飲みすぎてるだけ」
セバスチャンはそう言うと、ドリンクブースに向かって「テキーラのショット、二杯!」と叫んだ。
「おいおい。俺はもう飲まないぞ」
「いいじゃん。付き合ってよ」
慌てて首を振ったクリスに、ようやく君と話せるチャンスなんだ、と、セバスチャンが続けた。その言葉に疑問を投げる前に、ショットグラスが手のなかへ押し込まれる。
「暗い気分のときは、飲んで忘れるのが一番!」
セバスチャンが大声で言った。続けて、聞きなれない単語を叫ぶ。
「いまの何語?」
「ルーマニア語。乾杯って意味」
「へえ。喋れるの?」
「もちろん。住んでたからね」
ようやくセバスチャンに興味を惹かれはじめたクリスが、彼の出自について尋ねようとしたところだった。クリスの質問に先んじて、セバスチャンが勢いよくショットグラスのテキーラを呷る。呆気にとられて眺めていると、挑発めいた視線がクリスを煽るようにきらめいた。
「あんまり飲めないほう?」
「……いいや、結構飲めるほうだと思うけど」
「ふぅん」
普段だったら、こんな見え透いた挑発に乗ったりなどしない。けれど、今夜はなぜか乗ってやろうという気になった。フロアに立ち込めるマリファナの煙に酔ったのかもしれないし、相手が同性だからという油断もあったかもしれない。セバスチャンの言った通り、飲んで忘れたいことがたくさんあったせいかもしれない。理由はともかく、クリスも目の前の彼に倣って勢いよくショットグラスを傾けた。
「さっすが、カッコいい!」
セバスチャンのはやし立てるような声に、不思議と気分が高揚していく。ほんとうに不思議だった。普段なら、絶対にすぐこの場を立ち去っているところだ。
「……次は」
「次って、飲み物のこと?」
「それ以外になにかあるの」
「――ないね」
クリスの挑発にセバスチャンも乗る。なにかをたくらむように笑ってから、ドリンクブースへ向かって「クイックファックとブロウジョブ」と叫んだ。
「なんだよ、それ!」
「知らないの? カクテルだよ、カクテル」
ちょっとだけ下品な、と付け足したセバスチャンの胸元を叩き、大げさに顔をしかめて見せた。何度でもいうが、普段なら絶対にこんな飲み方はしないし、Fワードが聞こえた時点で席を立っている。ほんとうだ。
「どうやって飲むんだよ、それ」
運ばれてきた見るからに甘ったるいそれを指さして聞く。ショットグラスに注がれているが、リキュールとクリームがすっかり分離していて、マドラーなしでは飲みにくそうだ。
問われたセバスチャンが、またなにかをたくらむような顔で笑う。
「こうやるの。――見てて」
セバスチャンは囁くようにそう言うと、薄い唇をぱかっと開いてショットグラスを咥えて見せた。そしてそのまま頭を後ろに仰がせ、流し込むように飲み干して見せる。なるほど、その名の通り「ブロウジョブ」だ。
「……ワァオ」
つい、感嘆したような声がこぼれた。
セバスチャンの男らしい顎を伝い、首筋、鎖骨、胸元へと飲みきれなかったクリームが滑り落ちる。これが女性だったら、と思うと、名前の通りずいぶんと卑猥な飲み物だ。
セバスチャンの赤い舌が、唇のまわりについたクリームをべろりと舐めた。首を仰がせたまま、青い瞳だけで見下ろすようにクリスを見る。
「俺、これ得意なんだ」
「……これ、って?」
ブロウジョブ。
喧噪が遠ざかり、セバスチャンの囁くような声だけがクリスを支配していた。
誠の恋をする者は、みな一目で恋をするという。ならば、これが誠の恋と言うやつだろうか。
そんなことを思いながら、視線は目の前の白い首筋へ吸い付いて離れなかった。
DJのきわどい煽りに、ひときわ大きな歓声があがった。ハウリングする寸前、といったような甲高い電子音が鼓膜に刺さり、知らず眉間に皺が寄る。この空間の中で、これほど冴えない表情をしているのは、きっとクリスただ一人きりだ。
冴えない表情はしているけれど、クリスはどちらかといえばモテるほうだ。長身で、ブロンドで、青い目をしていて、スポーツが得意で、実家は歯医者。洒落た服を着ていなくとも、あるいはフットボールやバスケットボールのチームに入っていなくとも、クリスはガールフレンドに不自由したことがない。それで、いわゆる「客寄せ」のような扱いで声をかけられたのだ。普段ならにべもなく断るところだったが、今日はつい魔が差して足を運び、こうして冴えない表情をさらす羽目になっている。
「――クリス! なあ、お前、全然飲んでないじゃないか!」
友人の一人が、そう叫びながらクリスの肩を気安く抱いた。腹を揺らすようなベース音がその叫び声をかき消す。クリスはこれ幸いと聞こえないふりをしながら、逃げるように体を引いた。
「おい、クリスったら!」
追いすがるその声に耳を塞ぎ、そこだけぽっかりと人気のないドリンクブースへと滑り込む。ちょうどフロアが盛り上がっている時間だからか、立ち寄る人間はいても、長居をするものはいない。
コロナのビンを一本貰い、近くのスツールに腰掛けてフロアの喧噪を眺めた。
ただその場にいるだけで酔ってしまいそうなほど立ち込めるマリファナの煙と、めかしこんだ学生たちから香るきついコロンの匂い。うんざりとしながら肺に溜まった息をはきだすと、そんなクリスの様子を面白がるような低い笑い声がすぐ後ろから聞こえた。
「……なにか用か?」
尖った気分のまま振り返り、つっけんどんにそう尋ねる。すると、クリスを笑った男は気分を害した様子もなく、まるで旧知の友人のように隣のスツールへと腰掛けた。
「用がなきゃ近寄るのもダメなの? 厳しいな」
「そうじゃないけど……ごめん、君の顔に見覚えがないんだ。俺たちどこかで会ったことある?」
不躾なその問いに、男は「正直な人だな」と笑って肩を竦めた。
「セバスチャンだ。喋ったことはないけど、同じ授業を取ってる」
「なんのクラス?」
「哲学概論。俺、いっつも後ろのほうにいるから」
その答えに、へえ、と思わず声が漏れる。男のルックスが、お世辞にも哲学などという奇矯な学問に興味のありそうなタイプには見えなかったからだ。遠目からでも目を惹く派手な服装に、クリスとそう変わらないほどの長身。こぼれそうなほど大きな青い目。緩やかなウェーブを描くブルネットに、つんと尖ったちいさな鼻。薄い唇にしっかりとした顎。どこかエキゾチックな雰囲気のある、よく言えばハンサム、悪く言えばちょっと軽薄な感じのする男だ。
「君みたいのがいたら、目立ちそうだけどな」
「普段はもっとおとなしいんだ。今日はほら、パーティーでしょ?」
男――セバスチャンは、自嘲気味にそう言うと、羽織っていた派手な柄のブルゾンを脱ぎ、シンプルなグレーのTシャツ姿になってみせた。もうずいぶんと飲んできたのか、二の腕のあたりまで赤みが差している。
「だったら、こんなとこにいないで楽しんでこいよ」
クリスは、輪をかけて不愛想にそう返した。セバスチャンが動くたびに香るむせかえるようなマリファナの匂いが不快だったせいだ。
「そう邪険にするなよ。……こないだ、君の出てる芝居を観たんだ」
「こないだって、先週やった『お気に召すまま』かい?」
「それそれ」
セバスチャンは落ち着きなく足を揺らしながら「この世は舞台、男も女もみな役者だ」と劇中の一節をそらんじて見せた。
「……本当は、ジェイクィズをやりたかったんだ」
いましがたセバスチャンがそらんじた台詞は、ほんとうならクリスが舞台の上で言いたかった台詞だった。
「君のオリヴァー、すごくよかったと思うけど」
「そいつはどうも」
「傷心の原因はそれ?」
「……傷心って」
つい口ごもったクリスを、セバスチャンがにこにことしながら見つめる。
「見たらわかるよ。なんか、悲劇の真っただ中って顔してるもの」
「そういう君は、とっても楽しそうだ。この世の春を謳歌してるって感じ」
「そうでもないよ。ちょっと飲みすぎてるだけ」
セバスチャンはそう言うと、ドリンクブースに向かって「テキーラのショット、二杯!」と叫んだ。
「おいおい。俺はもう飲まないぞ」
「いいじゃん。付き合ってよ」
慌てて首を振ったクリスに、ようやく君と話せるチャンスなんだ、と、セバスチャンが続けた。その言葉に疑問を投げる前に、ショットグラスが手のなかへ押し込まれる。
「暗い気分のときは、飲んで忘れるのが一番!」
セバスチャンが大声で言った。続けて、聞きなれない単語を叫ぶ。
「いまの何語?」
「ルーマニア語。乾杯って意味」
「へえ。喋れるの?」
「もちろん。住んでたからね」
ようやくセバスチャンに興味を惹かれはじめたクリスが、彼の出自について尋ねようとしたところだった。クリスの質問に先んじて、セバスチャンが勢いよくショットグラスのテキーラを呷る。呆気にとられて眺めていると、挑発めいた視線がクリスを煽るようにきらめいた。
「あんまり飲めないほう?」
「……いいや、結構飲めるほうだと思うけど」
「ふぅん」
普段だったら、こんな見え透いた挑発に乗ったりなどしない。けれど、今夜はなぜか乗ってやろうという気になった。フロアに立ち込めるマリファナの煙に酔ったのかもしれないし、相手が同性だからという油断もあったかもしれない。セバスチャンの言った通り、飲んで忘れたいことがたくさんあったせいかもしれない。理由はともかく、クリスも目の前の彼に倣って勢いよくショットグラスを傾けた。
「さっすが、カッコいい!」
セバスチャンのはやし立てるような声に、不思議と気分が高揚していく。ほんとうに不思議だった。普段なら、絶対にすぐこの場を立ち去っているところだ。
「……次は」
「次って、飲み物のこと?」
「それ以外になにかあるの」
「――ないね」
クリスの挑発にセバスチャンも乗る。なにかをたくらむように笑ってから、ドリンクブースへ向かって「クイックファックとブロウジョブ」と叫んだ。
「なんだよ、それ!」
「知らないの? カクテルだよ、カクテル」
ちょっとだけ下品な、と付け足したセバスチャンの胸元を叩き、大げさに顔をしかめて見せた。何度でもいうが、普段なら絶対にこんな飲み方はしないし、Fワードが聞こえた時点で席を立っている。ほんとうだ。
「どうやって飲むんだよ、それ」
運ばれてきた見るからに甘ったるいそれを指さして聞く。ショットグラスに注がれているが、リキュールとクリームがすっかり分離していて、マドラーなしでは飲みにくそうだ。
問われたセバスチャンが、またなにかをたくらむような顔で笑う。
「こうやるの。――見てて」
セバスチャンは囁くようにそう言うと、薄い唇をぱかっと開いてショットグラスを咥えて見せた。そしてそのまま頭を後ろに仰がせ、流し込むように飲み干して見せる。なるほど、その名の通り「ブロウジョブ」だ。
「……ワァオ」
つい、感嘆したような声がこぼれた。
セバスチャンの男らしい顎を伝い、首筋、鎖骨、胸元へと飲みきれなかったクリームが滑り落ちる。これが女性だったら、と思うと、名前の通りずいぶんと卑猥な飲み物だ。
セバスチャンの赤い舌が、唇のまわりについたクリームをべろりと舐めた。首を仰がせたまま、青い瞳だけで見下ろすようにクリスを見る。
「俺、これ得意なんだ」
「……これ、って?」
ブロウジョブ。
喧噪が遠ざかり、セバスチャンの囁くような声だけがクリスを支配していた。
誠の恋をする者は、みな一目で恋をするという。ならば、これが誠の恋と言うやつだろうか。
そんなことを思いながら、視線は目の前の白い首筋へ吸い付いて離れなかった。
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あとがきというか補足というか
セブはほんとに普段は冴えない感じで、後日学校で会ったクリスが追いかけまわすんだけど「あの時は酔ってたんだ、忘れてくれ」とか言って逃げ回ります。じつはクリスの隠れファンなセブが、酔って一世一代の大芝居を打った感じ……とかでもいいし、じつは隠れビッチ(言葉が悪いですが)ないけいけバイセクシャルセブ君が一夜のお相手に前々からいいな~と思ってたクラスのイケメンクリス君をひっかけただけ、とかでもいい。例のごとく細かいことはまったく決めてません。
大学生感をまったく生かせてない、反省
セブはほんとに普段は冴えない感じで、後日学校で会ったクリスが追いかけまわすんだけど「あの時は酔ってたんだ、忘れてくれ」とか言って逃げ回ります。じつはクリスの隠れファンなセブが、酔って一世一代の大芝居を打った感じ……とかでもいいし、じつは隠れビッチ(言葉が悪いですが)ないけいけバイセクシャルセブ君が一夜のお相手に前々からいいな~と思ってたクラスのイケメンクリス君をひっかけただけ、とかでもいい。例のごとく細かいことはまったく決めてません。
大学生感をまったく生かせてない、反省
