生活感のあるBLが好きです
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冷蔵庫のなかに、買った覚えのないヨーグルトがあった。
寝室のサイドボードに、自分のものではない男物のブレスレットがあった。
洗面所の棚の中に、知らないメーカーのヘアジェルがあった。
トイレのタオルが、いつのまにか新しくなっていた。
リビングのカレンダーが、気づいたら勝手にめくられていた。
「……クリスか?」
洗濯機から出てきた見覚えのないTシャツを摘まみあげて、そう独り言ちる。シンプルな白の無地、自分も同じようなものを持っていた気もするが、タグを見たら、知ってはいるが着たことのないブランド名が書かれていた。
「クリスだな」
一人暮らしが長いと、自然、独り言が多くなってしまう。絶対クリスのだ、と繰り返し呟き、他にも何か混ざってやしないかと洗濯カゴのなかをかきまわした。すると、出るわ出るわ。パンツに靴下、Tシャツがもう二枚。
「ウチはランドリーじゃないぞ」
ここにはいない恋人へ文句をつけながら、乾燥機につぎつぎと洗濯物を投げ込んでいく。扉を閉めてスイッチを押し、ふ、と短い溜息をついた。
キッチンへ向かい、コーヒーメーカーに豆と水を足す。普段使いのタンブラーにミルクを注ぎ、シンクに溜めた食器を食洗器へと押し込んだ。
食器棚にも、自分の物ではないマグカップとグラスがある。けれどこれは、クリスと付き合いだしてすぐ、セバスチャンが自分で買ってきたものだ。キッチンの出窓に置いたちいさなサボテン、これはクリスが買ったものだが、セバスチャンが自分で「置いてもいいよ」と言った記憶がある。けれど、その隣に置かれたキャプテン・アメリカのミニフィギュアについては許可を出した覚えがない。
冷蔵庫を開け、買った覚えのないヨーグルトを出した。二個あるから、きっと二人で朝にでも食べようと買ってきて、すっかり忘れたまま食べずに帰ったのだろう。次この家で会うまでは持たないだろうから、ストロベリー味のほうを冷蔵庫へ戻し、ブルーベリー味のほうの蓋をはがした。
行儀悪く立ったままスプーンをくわえ、コーヒーメーカーが立てる抽出音を聞きながらヨーグルトを食べた。
自分の家なのに、すこし視線を巡らせるだけでクリスが残した痕跡に出会う。舌に残ったブルーベリーの皮を飲み下すと、なんとなく気分まで甘酸っぱくなった。
乾燥機が終了のアラームを鳴らす。一緒にコーヒーも出来上がったので、とりあえずカフェラテを作ってリビングのソファに座った。ここにもクリスの痕跡がある。クリスのグラビアが載ったファッション雑誌と、ウィンターソルジャーが登場する回のペーパーバック。未開封のポテトチップス。劇場で観そびれた映画のブルーレイディスク。冬に忘れていったまま、結局ずっと置きっぱなしになっている上着。どれもクリスが持ってきて、置いていったものだ。
「……わざとか?」
苦笑しながらそう呟き、スマートフォンでポテトチップスの写真を撮った。「はやく食べたい」とメッセージを添え、クリス宛に送信する。勝手に食べてもいいのだけれど、確かこれは映画を観ながら一緒に食べようとクリスが買ってきたものだ。その映画も、結局まだ観ていない。
そんなことを思い出すにつけ、ひとりで家にいるのがたまらなく寂しく思えてきた。痕跡ばかり残しておいて、本人がいない。それがひどく寂しい。
どうやら知らないうちに、まんまと罠にはまっていたらしかった。
「絶対わざとだ」
誰に聞かせるともなくそう言い、なかなか鳴らないスマートフォンをじっと睨む。一分でも一秒でも、いまはとにかくクリスに会いたくてたまらなかった。
寝室のサイドボードに、自分のものではない男物のブレスレットがあった。
洗面所の棚の中に、知らないメーカーのヘアジェルがあった。
トイレのタオルが、いつのまにか新しくなっていた。
リビングのカレンダーが、気づいたら勝手にめくられていた。
「……クリスか?」
洗濯機から出てきた見覚えのないTシャツを摘まみあげて、そう独り言ちる。シンプルな白の無地、自分も同じようなものを持っていた気もするが、タグを見たら、知ってはいるが着たことのないブランド名が書かれていた。
「クリスだな」
一人暮らしが長いと、自然、独り言が多くなってしまう。絶対クリスのだ、と繰り返し呟き、他にも何か混ざってやしないかと洗濯カゴのなかをかきまわした。すると、出るわ出るわ。パンツに靴下、Tシャツがもう二枚。
「ウチはランドリーじゃないぞ」
ここにはいない恋人へ文句をつけながら、乾燥機につぎつぎと洗濯物を投げ込んでいく。扉を閉めてスイッチを押し、ふ、と短い溜息をついた。
キッチンへ向かい、コーヒーメーカーに豆と水を足す。普段使いのタンブラーにミルクを注ぎ、シンクに溜めた食器を食洗器へと押し込んだ。
食器棚にも、自分の物ではないマグカップとグラスがある。けれどこれは、クリスと付き合いだしてすぐ、セバスチャンが自分で買ってきたものだ。キッチンの出窓に置いたちいさなサボテン、これはクリスが買ったものだが、セバスチャンが自分で「置いてもいいよ」と言った記憶がある。けれど、その隣に置かれたキャプテン・アメリカのミニフィギュアについては許可を出した覚えがない。
冷蔵庫を開け、買った覚えのないヨーグルトを出した。二個あるから、きっと二人で朝にでも食べようと買ってきて、すっかり忘れたまま食べずに帰ったのだろう。次この家で会うまでは持たないだろうから、ストロベリー味のほうを冷蔵庫へ戻し、ブルーベリー味のほうの蓋をはがした。
行儀悪く立ったままスプーンをくわえ、コーヒーメーカーが立てる抽出音を聞きながらヨーグルトを食べた。
自分の家なのに、すこし視線を巡らせるだけでクリスが残した痕跡に出会う。舌に残ったブルーベリーの皮を飲み下すと、なんとなく気分まで甘酸っぱくなった。
乾燥機が終了のアラームを鳴らす。一緒にコーヒーも出来上がったので、とりあえずカフェラテを作ってリビングのソファに座った。ここにもクリスの痕跡がある。クリスのグラビアが載ったファッション雑誌と、ウィンターソルジャーが登場する回のペーパーバック。未開封のポテトチップス。劇場で観そびれた映画のブルーレイディスク。冬に忘れていったまま、結局ずっと置きっぱなしになっている上着。どれもクリスが持ってきて、置いていったものだ。
「……わざとか?」
苦笑しながらそう呟き、スマートフォンでポテトチップスの写真を撮った。「はやく食べたい」とメッセージを添え、クリス宛に送信する。勝手に食べてもいいのだけれど、確かこれは映画を観ながら一緒に食べようとクリスが買ってきたものだ。その映画も、結局まだ観ていない。
そんなことを思い出すにつけ、ひとりで家にいるのがたまらなく寂しく思えてきた。痕跡ばかり残しておいて、本人がいない。それがひどく寂しい。
どうやら知らないうちに、まんまと罠にはまっていたらしかった。
「絶対わざとだ」
誰に聞かせるともなくそう言い、なかなか鳴らないスマートフォンをじっと睨む。一分でも一秒でも、いまはとにかくクリスに会いたくてたまらなかった。
