10本目です
たまにはザ・BL!って感じの話を書いてみたかった!という気概だけは汲んでいただきたい
たまにはザ・BL!って感じの話を書いてみたかった!という気概だけは汲んでいただきたい
■
それ、とジェームズが首を傾げる。
「うまい?」
「まあ、けっこうイケるな」
サムがそう返すと、わざわざ聞いたくせにさほどの興味もなかったらしい。ジェームズは「へえ」とだけ言ってすぐに手元の資料へ目線を戻し、くわ、とあくびをこぼしながらテイクアウトのコーヒーをひとくち含んだ。
ニック・フューリーの呼び出しはいつも突然で、そのくせ本人が現れることさえ稀だった。今日は見知らぬ若い女性のエージェントが、資料と作戦に必要なデータだけを持って現れ、すぐに帰っていった。待ち合わせ場所はオフィス街にあるコーヒースタンド。ランチタイムは過ぎているから、二人のいるテラスや表通りにもそれほど人影はない。
「二粒だけ?」
視線もよこさず言うジェームズに、思わず苦笑が漏れる。興味がないどころか、どうやらその反対だったようだ。
コーヒーのおまけについてきた、二粒の小さなチョコレート。ジェームズは断ったようだったから、てっきりこういった類のものは好きではないのかと思っていた。残った一粒を摘まみ、見せびらかすように持ちあげる。
「あんたも貰えばよかっただろ」
「……だって、チョコだぜ?」
「男が甘いもん食うのは恥ずかしいって?」
サムの揶揄に、ジェームズが首を横に振る。
「いいや、旨いもんだっていう認識がなかった」
「食ったことねえの」
「あるよ。だが、ありゃあ人間の食うもんじゃなかったね」
「……なるほどな」
普段はまったく意識せず過ごしているのに、ほんのちょっとしたことでジェームズとの年齢差を突きつけられることがある。昔の軍用レーションの味は、それはもうひどいものだったとスティーブから聞いたことがあった。きっとそのことを指しているのだろう。
「少なくとも、歯が折れる心配はねえよ」
苦笑しながらそう続けると、ジェームズはようやく興味深げにサムの手元を覗きこんだ。はじめて見たエサを警戒する猫のように鼻先だけ近付け、大きな目をじっと据わらせてチョコレートを睨んでいる。
「食ってみればいいだろ」
ほら、と摘まんだチョコレートをジェームズの口元に寄せると、驚いたように顎を引き、またじっとサムの指先を睨みつけてから、ちいさく首を横に振った。
「……やっぱいい」
「なんだ。じゃあ食べちまうぞ」
そう言って、返事も聞かずに口へ放り込む。ジェームズの「あっ」という顔が可笑しくて、口元が勝手に緩んだ。未知のものへの好奇心は強いようなのに、変なところで遠慮がちというか、尻込みをするようなところがある。
そういうところが憎めないのだ。憎む理由もないが。
「甘い?」
「いいや、けっこう苦いな」
「うまい?」
「うん。……なんだよ、やっぱ食いてえんじゃん」
ジェームズの質問攻めを鼻で笑い飛ばし、空になった手のひらをこれ見よがしに振った。まるで子供じみたその仕草に、ジェームズの鼻筋に深い皺が寄る。
今度は、サムが「あっ」という番だった。
「……ほんとだ、うまいじゃん」
すぐ目の前にある長い睫毛がぱたぱたと上下し、甘ったるい吐息が鼻先をくすぐる。白昼堂々サムの唇を奪って見せたジェームズは、薄い唇を舌で舐めながら勝ち誇ったような顔で笑い、けれどほんの少しだけ恥ずかしそうに目を伏せて冷めたコーヒーに手を伸ばした。
「……あんたってさあ」
叫びだしたいような気持をぐっと堪え、気恥ずかしさといたたまれなさに火照った顔を手のひらで覆う。男同士、それも見た目には三十半ばの大柄な強面二人組だ。いたたまれないに決まっている。しでかした本人が真っ赤な顔をしているのだからさもありなんだ。
「……言わないでくれ。俺が一番わかってる」
「目撃者がいなかったことを祈ろうぜ」
「ああ」
この場所が二度とフューリーのご指名を受けないことを重ねて祈りながら、サムも汗まみれのアイスコーヒーへ手を伸ばした。自分の手のひらのほうがよほど汗をかいているが、これはきっと今日の陽気のせいだ。そうに違いない。
「うまい?」
「まあ、けっこうイケるな」
サムがそう返すと、わざわざ聞いたくせにさほどの興味もなかったらしい。ジェームズは「へえ」とだけ言ってすぐに手元の資料へ目線を戻し、くわ、とあくびをこぼしながらテイクアウトのコーヒーをひとくち含んだ。
ニック・フューリーの呼び出しはいつも突然で、そのくせ本人が現れることさえ稀だった。今日は見知らぬ若い女性のエージェントが、資料と作戦に必要なデータだけを持って現れ、すぐに帰っていった。待ち合わせ場所はオフィス街にあるコーヒースタンド。ランチタイムは過ぎているから、二人のいるテラスや表通りにもそれほど人影はない。
「二粒だけ?」
視線もよこさず言うジェームズに、思わず苦笑が漏れる。興味がないどころか、どうやらその反対だったようだ。
コーヒーのおまけについてきた、二粒の小さなチョコレート。ジェームズは断ったようだったから、てっきりこういった類のものは好きではないのかと思っていた。残った一粒を摘まみ、見せびらかすように持ちあげる。
「あんたも貰えばよかっただろ」
「……だって、チョコだぜ?」
「男が甘いもん食うのは恥ずかしいって?」
サムの揶揄に、ジェームズが首を横に振る。
「いいや、旨いもんだっていう認識がなかった」
「食ったことねえの」
「あるよ。だが、ありゃあ人間の食うもんじゃなかったね」
「……なるほどな」
普段はまったく意識せず過ごしているのに、ほんのちょっとしたことでジェームズとの年齢差を突きつけられることがある。昔の軍用レーションの味は、それはもうひどいものだったとスティーブから聞いたことがあった。きっとそのことを指しているのだろう。
「少なくとも、歯が折れる心配はねえよ」
苦笑しながらそう続けると、ジェームズはようやく興味深げにサムの手元を覗きこんだ。はじめて見たエサを警戒する猫のように鼻先だけ近付け、大きな目をじっと据わらせてチョコレートを睨んでいる。
「食ってみればいいだろ」
ほら、と摘まんだチョコレートをジェームズの口元に寄せると、驚いたように顎を引き、またじっとサムの指先を睨みつけてから、ちいさく首を横に振った。
「……やっぱいい」
「なんだ。じゃあ食べちまうぞ」
そう言って、返事も聞かずに口へ放り込む。ジェームズの「あっ」という顔が可笑しくて、口元が勝手に緩んだ。未知のものへの好奇心は強いようなのに、変なところで遠慮がちというか、尻込みをするようなところがある。
そういうところが憎めないのだ。憎む理由もないが。
「甘い?」
「いいや、けっこう苦いな」
「うまい?」
「うん。……なんだよ、やっぱ食いてえんじゃん」
ジェームズの質問攻めを鼻で笑い飛ばし、空になった手のひらをこれ見よがしに振った。まるで子供じみたその仕草に、ジェームズの鼻筋に深い皺が寄る。
今度は、サムが「あっ」という番だった。
「……ほんとだ、うまいじゃん」
すぐ目の前にある長い睫毛がぱたぱたと上下し、甘ったるい吐息が鼻先をくすぐる。白昼堂々サムの唇を奪って見せたジェームズは、薄い唇を舌で舐めながら勝ち誇ったような顔で笑い、けれどほんの少しだけ恥ずかしそうに目を伏せて冷めたコーヒーに手を伸ばした。
「……あんたってさあ」
叫びだしたいような気持をぐっと堪え、気恥ずかしさといたたまれなさに火照った顔を手のひらで覆う。男同士、それも見た目には三十半ばの大柄な強面二人組だ。いたたまれないに決まっている。しでかした本人が真っ赤な顔をしているのだからさもありなんだ。
「……言わないでくれ。俺が一番わかってる」
「目撃者がいなかったことを祈ろうぜ」
「ああ」
この場所が二度とフューリーのご指名を受けないことを重ねて祈りながら、サムも汗まみれのアイスコーヒーへ手を伸ばした。自分の手のひらのほうがよほど汗をかいているが、これはきっと今日の陽気のせいだ。そうに違いない。
