011 ちょっと待って(クリセバ)

死ぬほど眠いです
クリセバでもセバクリでも読める感じのピロートーク
 セバスチャンが裸の背中へ密着するようにのしかかると、腹の下で「ちょっと待って」とクリスの疲れきった声が言う。
「なんだよ、もう限界?」
「……では、ないけど、ちょっと休憩」
 意地を張っているのだとすぐに分かる声だった。クリスのプライドとか沽券とか、そういった諸々を思えばこれは言わないお約束だろうが、キャプテン・アメリカでい続けるためのハードなトレーニングからようやく解放され、以前よりも体力が落ちているのだろう。
 対するセバスチャンはと言えば、ちょうど近々に迫った撮影のために体を追い込み始めたところで、体力も精力もいつも以上に満ち満ちていた。
「……物足りない?」
 セバスチャンの内心を汲んだように、クリスが言う。
「ちょっとね」
 嘘をついても仕方がないと思ったので、素直にそう返した。ほんとうはちょっとどころではなかったが、そこは思いやりだ。
「うそ、全然物足りないんだろ」
「……ばれたか」
「ごめんな」
 いいよ、と首を横に振り、クリスのうなじに鼻を埋める。セバスチャンの思いやりは空回った。それを申し訳なく思いながら、けれど腹のそこにくすぶる熱は誤魔化しようもない。だから、触れるだけ。二人の境界線をぼかすように体を揺すりながら、肌を触れあわせて熱を分けあう。
 足りないのは、セックスの回数だとか時間だとか、そういう即物的なものばかりじゃない。単に体を触れあわせて熱を分かち合う時間とか、とりとめのない近況報告に費やす時間とか、会話もなく空間を共有するだけの時間とか、色々。なにもかもが足りない。
「……一日が四十時間くらいあったらいいのに」
 セバスチャンの拗ねたような呟きに、クリスがまた「ごめんな」と申し訳なさそうに言った。
「いいって。俺が君よりスケベなのがいけないんだ」
「なにそれ」
「俺が君よりスケベで、堪え性がなくて、ワガママで、スケベだからいけないの」
「……スケベって二回言った」
「それだけスケベだってことだ」
 セバスチャンの奇妙な論理に、クリスが困った顔で笑う。その振動を肌で感じながら、名残惜しい気持ちをぶつけるように彼の尻を揉んだ。スケベなセバスチャンは、クリスの尻があと三つくらいあればいいといつも思っている。一つはクリスのところに、一つは自分の家に、一つは撮影現場のトレーラーに。そうすれば、少なくとも「クリスのお尻を揉みたい」という欲求だけは簡単に解消できる。
「キャプテンじゃなくなっても、お尻だけはちゃんと鍛えといてよね」
 セバスチャンが言うと、クリスは「このスケベめ」と呆れたように笑った。
「だって、君のお尻はアメリカのお尻なんだぜ?」
「キャプテン・アメリカの尻が、だろ」
「違う。クリス・エヴァンスのお尻が、なの」
 どう違うんだよそれ、とクリスが言う。違うったら違うんだよ、とセバスチャンも食い下がった。とにかく、クリスのお尻はアメリカいちだ、ということが言いたかった。全米ナンバーワンのお尻だ。
「俺のお尻が好きなの?」
「君のお尻『も』好きなの」
「君って意外と口が上手いよな」
 その嫌味にキスで返事をする。前戯のためのそれではなくて、親愛とかいたわりとか、そういった優しい気持ちばかりを込めたキスだ。
「キスも上手いだろ?」
「……ああ、その通りだ」
 覗きこんだクリスの瞳に、ほんの少しだけ熱が灯る。セバスチャンは心の奥で「ごめんね」と謝りながら、その熱を育てるようにもう一度キスを仕掛けた。
 だって、足りないのだ。一日が四十時間になって、クリスの尻が三つに増えてでもくれない限り、セバスチャンが満足できる日はきっと一生来ない。