001 おはよう(サムバキ)

超超超短い
なるべく毎日書きたいなと思います、なるべくです
EG後同居アースのサムバキ
「おはよう」
 間をおいて繰り返されるその挨拶は、サムに向けられたものではない。
 サムはポストから取ってきたばかりの朝刊に目を落としながら、ベランダにいる恋人の声にぼんやりと聞き入った。囁くような、柔らかくて甘い声だ。やや舌足らずなところがあって、語尾はいつでもむにゃむにゃとぼやけている。
「おはよう」
 その声に答えるように、ちいさな鳴き声が聞こえた。近隣で飼われている猫だろう。放し飼いにされているようで、時折手すり伝いにアパートじゅうを練り歩いているのだ。確か、白と黒のハチワレだった。
「おはよう」
 今度は、ちいさな羽音が鳴った。ハトだろうか。きっと近くの植木にでも留まっているのだろう。餌はやるなと言い含めてあるが、はたして。
「おはよう」
 次は、ばうっと低い鳴き声が聞こえた。毎朝早くに窓の下を通る犬だ。そのリードを握っているのはローティーンの可愛らしい少女で、登校前の日課なのか、毎朝決まってこの部屋の前を通るのだった。そこに他意がないとは言い切れない。
「おはよう」
 最後に、パジャマ姿のサムへ。ジェームズが家庭菜園をはじめてからというもの、サムはめっきり寝坊助扱いだ。
「……おう、おはよう」
「おいおい、ずいぶん眠そうだな」
「あんたみたいな年寄りと違って、俺はまだまだ育ちざかりなんだ」
「はは。ぐずぐずしてるとスクールバスが行っちまうぞ、サミー坊や」
 うるせえ、と軽口の応酬を続けながら、サムもベランダに立った。快晴とは言い難く、風はやや湿り気を帯びている。だが、いい朝だった。