デプ→スパ

なんとなく短いお話。
デプ→スパっぽい感じです。
俺ちゃんはじめて書いたのでいろいろ難しい……のと、マイルスの口調も迷子。苦肉の策で地の文がくどめ。

 花束の山を前に立ち尽くす男がいる。パーカーのフードを目深に被って項垂れ、夜の闇に紛れるようにひっそりと立っている。少年は「いつものことだ」と気にも留めなかった。花束の山に埋もれるように建つ墓石の主には、たくさんの隣人がいる。彼はすべてのニューヨーカーの隣人であり続けた――最期の時まで。
 けれどその直後少年が驚きに飛び跳ねたのは、男がその体の横に投げ出している右手に、銃を握っていたからだった。
「――ちょっと、何してるんだよ!」
 少年は黒いマスクの下から怒鳴った。全身を覆う黒いタイツスーツの上に、パーカーとハーフパンツを身に付けている。足元にはエアフォースワン。一見すればコスプレ好きのスパイダーマン・フリークのようだが、彼は正真正銘、本物のスパイダーマンだった。その証拠に、少年の手首からは蜘蛛の糸が伸び、男の持つ銃を大袈裟なほどしっかりと確保している。
 男は一瞬驚きに目を見開いたが、その驚きはすぐ少年へも伝播した。男の顔が、この世のものとも思えぬほど醜く爛れていたからだ。
「……よお、ひよっこスパイダーマン」
 男はすぐ平静を取り戻してそう言った。口元には少年を嘲笑うような笑みが浮かんでいる。少年はマスクの下で不満げに顔を歪めた。
「ここで一体何を? その銃は?」
 いかにも板についていない低い声は、まるで子供の警官ごっこだ。男は唸るように笑い「失せな、ガキ」と吐き捨てるように言った。
「あのね、俺ちゃんいまちょーっとご機嫌斜めなのよ」
 わかる? と小馬鹿にするように首を傾げ、糸まみれの右手をぶらぶらと振る。その侮るような態度に、少年はますます憤慨した様子で言い募った。
「だからって放ってはおけないだろ! おじさん、その銃でなにするつもりさ?」
「なにって……ナニ?」
「はあ?」
「おいおいこれ以上言わせんなよ坊主。さすがの俺ちゃんも恥ずかしいわ
「ええ……?」
 戸惑う少年をよそに、男はくねくねと体を曲げながら恥じ入るそぶりを見せる。先ほどまでの苛立った様子が嘘のようだ。その一種異様な佇まいに滲むような緊張感を覚えながら、少年はいつでも能力を発揮できるよう全身の感覚を研ぎ澄ませた。
 すると、ひとつわかったことがある。
 男の銃は、とっくにその役割を果たした後だったのだ。
「……おじさん、それ、どこで」
 その銃がつい今しがた使われたであろうことは、経験の浅い少年にですら間違いないだろうと確信できた。おどしのために一発や二発撃って逃げてきたにしては、その銃が発する匂いはあまりに濃く、あまりに強い。血の匂いも同様だった。
 であればなぜ、スパイダーセンスが働かなかったのか。本能的な恐怖に足を竦ませた少年を見下ろし、男が歯を見せて笑う。
「ここだよ、ひよっこ」
 瞬間、少年の背に震えるほどの悪寒が駆け上った。男の右手がゆっくりと持ち上がり、自身の側頭部をとんとんと叩く。そこには、まだ真新しい銃創があった。その銃創が、まるで意思を持った生き物のように蠢く。少年が瞬きを思い出すころ、そこにはただ波打つ皮膚だけがあった。
 男がふたたび歯を見せて笑う。
「俺ちゃんてば、人よりちょおっとばかり丈夫なのよ。――嫌んなるくらいね」
 少年は男の足元に転がっている薬莢を見た。まるで金色の花弁に彩られた花束のような、夥しい数の薬莢を。