Meat Eater(クリセバ)

悪徳警官プレイ!
 恋人の部屋を訪ねると、出迎えに現れた顔が驚いたように固まり、それからすぐげらげらと笑いだした。
「人の顔を見て笑うんじゃない」
「だってセブ、どうしたんだよそれ」
 どうしたもこうしたもない。仕事のためだ。それも、クリスの代役で決まった仕事だった。それを当のクリスに笑われたんじゃ、さすがのセバスチャンもたまったものではない。慣れ親しんだ髭を失って寂しくなった顎を指先で擦りながら、まだ笑い続けているクリスを押し退けて彼の部屋に上がりこんた。
「役作りに決まってるだろ」
「へえ。なんの?」
「警官」
 ああ、とようやく合点がいった様子でクリスが頷く。その彼を置いてキッチンへ立ちいり、許しを得ずにあちこちの扉を開けてまわる。冷凍庫からピザとナゲットを取り出し、レンジへ適当に突っ込んでからリビングへ向かった。あれこれ散らかったソファを片付けていたクリスが顔をあげ、まだ笑い足りないような雰囲気でセバスチャンを見る。
「そんなつるんとした顔、初めて見たかも」
「これから毎日でもどうぞ」
「一生でもいいけど」
「言ったな?」
 責任とれよと笑いながら、脱ぎたてのジャケットを投げつける。それを危なげなく受け取ったクリスは「指輪が必要?」とうそぶきながら片付けの続きに戻った。セバスチャンもキッチンへ戻り、夕飯の支度を再開する。と言っても、温まったメニューを皿に移すだけの作業だ。すぐに支度も終わり、冷蔵庫にあったビールを二本拝借してリビングへ帰る。先にソファでくつろいでいたクリスの横に腰かけ、冷えた缶を一本手渡した。
「君も飲むだろ?」
「気が利くな」
「まあね。俺の奢りだ」
「馬鹿言え、俺が買ったやつだろ」
「そうだっけ」
 行儀悪くピザにかじりつきながら肩をすくめ、缶のプルタブに指をかけたときだった。横からそれを阻む不埒な手が延びてきたので、セバスチャンはむっとしながらその手の持ち主を睨んだ。
「なんだよ」
 睨まれたクリスはにやりと笑い、それからちょっとばかり尊大に胸を反らして言う。
「ボーイ、IDを出しな」
 なるほど、そうきたか。セバスチャンは唸った。髭がないとどうしても子供っぽく見られがちだが、だからと言ってボーイ呼ばわりはあんまりだ。
「……この野郎」
「おいおい、言葉には気を付けろよ」
 手錠をかけられたいのか、と続けたクリスは、まるで本物の警官のようだ。それもクソいけ好かない悪徳警官。クソッタレ、ともう一度悪態をつき、食べかけのピザを皿へ戻す。
「この腐れお巡りめ」
「言葉使い」
「……オーケー、そういうプレイがお望みか」
 返事のかわりに嫌みったらしく唇を吊り上げてみせたクリスに、セバスチャンも負けじと表情をつくる。
「――ねえ、お巡りさん。今日だけ見逃してよ」
 甘えた声でそう言い、あからさまな媚びを含ませた目線を送った。お願い、とわざとらしく舌足らずに続け、思わせ振りな手つきでクリスの太腿に触れる。けれど、クリス演じる悪徳警官は手強かった。
「お前を見逃したところで、俺になんの得がある?」
 にやついた顔で品定めをするようにセバスチャンを見下ろし、クリスが言う。悪徳警官ならぬ、変態警官だ。
「……俺、金もクスリも持ってないんだ」
 ふんぞりかえったクリスを下から見上げ、あわれっぽく眉を下げてそう返した。薬は本当に持っていないが、なにせいまをときめくアベンジャーズだ。マーベルヒーローだ。正直に言うと金なら腐るほどある。けれど今夜のセバスチャンは、運悪く悪徳警官に捕まった可哀想な不良少年だ。頭が悪くて金が無くて、でも顔はセバスチャン・スタンの、髭も生えていない不良少年。つまりはそういうことだ。
 そんなセバスチャン演じる不良少年の陳情を鼻で笑ったクリスは、堂に入った演技ですげなく言った。
「じゃあ、俺がしてやれることはないぜ。牢屋でたっぷり可愛がってもらうんだな」
「そんな、ヤだよ!」
 文句を言いながらもだんだん気分が乗ってきたセバスチャンは、チャームポイントの大きな瞳を涙で潤ませながらクリスの膝にすがりついた。
「なんでもするから、ね?」
「……なんでも?」
 クリスが憎らしいほどうまく下品な表情をつくり、おもむろにセバスチャンの尻たぶを鷲掴む。セバスチャンは怯むことなくその顔を見返し、唇を舌で湿らせながら囁くように言った。
「するよ。お巡りさんがしてほしいこと、なんでも」
「ちゃんと言ってくれないとわからないな」
 期待に満ちた顔で言うクリスに、少年らしい生意気さとすこしの怯えを隠した顔で媚びるように笑いかける。そして、躊躇いがちにうつむいたあとで意を決したように口を開いた。
「……あんたとファックしたら、俺を見逃してくれる?」
 サービスするから、と続けると、クリスの喉がごくりと鳴った。我ながらなかなかの演技だ。脚本は正直クソ以下だけど――そんなことを思いながら、ソファに押し倒される。セバスチャンを見下ろしたクリスは、完璧な演技で悪徳警官を演じきった。
「……たっぷりと楽しませてくれよ」
「いいよ。――でも、ピザを食ってからな」
 ええっ、と間抜けな声を上げたクリスを押し返し、まだ辛うじて温かい食べかけのピザにかじりつく。
「いいとこだったのに!」
「馬鹿言え、ディナーが先だ」
「もう食べた」
「俺はまだなの」
 そう言いながら、手付かずだったビールを取り返して一息に飲んだ。すこしばかり温いが、まあ及第点だ。
「未成年飲酒!」
「はいはい。あ、君もピザ食べる?」
「食べる」
 俺の奢りだ、と尊大に言ったセバスチャンに、恨めしげな顔をしたクリスが「だから、俺んちのだってば」と返す。それは紛れもない事実なので、お返しはきちんとするつもりだ。今夜、ベッドの上で。