すけべなクリセバ

わたしの書くcrsbだいたい襲い受け説

 行儀悪く床に座りこんで映画を観ていたセバスチャンは、ふと、うしろの恋人がやけに静かだということに気が付いた。
「……おい、まさか寝る気か?」
 クリスは生返事を返すばかりで、このまま本格的な眠りへ移行しようとしているのは明らかだった。疲れているのはわかる。セバスチャンだって疲れている。この世の誰だって、夜は多少なりとも疲れているものだ。けれど、疲れているからこそ、恋人とのつかの間の触れ合いが欲しいに決まっているのだった。
 セバスチャンは上半身をひねって振り向き、クリスの膝を叩いた。クリスがまた生返事を返す。「ああ」とか「うん」とか、「あと五分」とか。物わかりのいい恋人としては、きっとここでおとなしく寝かせてやるのが正解なのだろう。でも、セバスチャンは違った。セバスチャンは物わかりのいい恋人とは言い難く、そういうふうになるつもりだって毛頭ない。だってそんなのはつまらないし、セバスチャンは自分の価値を知っている。パーティー会場で舌なめずりをする数多の女たちと同じフィールドで勝負してやるつもりなどはなからない。
「起きろったら!」
 目をしょぼつかせるクリスを見上げ、セバスチャンが唸った。可愛い恋人のわがままを聞くつもりがないのか、クリスはなおも夢とうつつのあいだをふらふらとしている。セバスチャンはその強情な眠気に呆れ、口をあんぐりとあけてクリスを見た。行儀よく生えそろった長いまつげはすっかり伏せられ、厚みのある柔らかな唇はうっすらと笑みさえ浮かべている。がっくりと肩を落としたセバスチャンは、八つ当たりのようにテレビを消し、暗くなった画面に呪いの言葉を投げつけた。いまは他人のキスシーンを見て笑えるような気分じゃない。
「クゥリス、クリスってば。なあ、マジで?」
 何度呼び掛けても、返ってくるのは要領を得ない生返事だ。焦れたセバスチャンは立ち上がって体ごと振り向き、いよいよ夢の世界へ旅立とうとしているクリスの膝へ勢いよく乗り上げた。躍起になって肩を揺さぶり、名前を呼ぶ。怒ったように呼んでみたり、甘えるように、悲しむように、ちょっとセクシーに、ときどきは殺気をこめて。
 いよいよ俳優としての引き出しが尽きかけ、セバスチャンはぐったりとうなだれた。
「……わかった。もういい、寝ろよ。このクソ野郎め」
 吐き捨てるようにそう言い、もとの体勢に戻って膝を抱える。もういちど映画を観直そうかとも思ったけれど、少し考えてやめた。いま付けたところで、はじまるのは知らない男女のラブシーンに決まっている。そんなの観たってむなしいだけだ。
 手慰みにスマートフォンをいじりながら、インスタグラムに意味深なストーリーでも投稿してやろうかと思いはじめたところだった。ふいにいい考えを思いつき、ひとりでに顔がにやけだす。そうだ、どうしたって起きないつもりならば、こっちにだって考えがある。
「ヘイ、クリス。いまさら起きるなよ……」
 そう独り言ちながら振り返り、おもむろにクリスの膝へ手を這わせた。そのままベルトのバックルまで指をたどらせ、舌なめずりをしながら上目で恋人の様子をうかがう。セバスチャンのたくらみに気付きもせず、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。可愛いような憎らしいような、複雑な気持ちを抱きながら悪だくみの続きに戻った。
 ベルトをやっつけ、ジーンズのフロントホックへうつる。ふいにクリスが身じろぐたび、スパイ映画のワンシーンのような緊張感が背筋を走った。その緊張感すら楽しみながら、セバスチャンはいよいよ目の前のボクサーブリーフに語りかける。
「ハアイ、ずいぶんキュートな柄だね。君の持ち主がいけないんだぜ。俺をほっとくから」
 ウエストのゴムに指をさしこみ、ぐいぐいと引きずりおろす。すべて脱がせるのはさすがに難しいので、クリスは尻を半分だけだしたまぬけな姿でソファーにすわり、その姿のまま気持ちよさそうに眠っている状態だ。クリス・エヴァンスのクリス・エヴァンスが、主人の気持ちを代弁するようなぐったりとした顔でセバスチャンを見る。
「おいおい、元気ないな。大丈夫か?」
 ちょんちょんと頭をつついてやり、人間ならばきっとこの辺が背中だろうと思しき部分をさすってやる。クリスは力なくうなだれたままだ。セバスチャンは唇をつりあげてにっこりと笑い「すぐに元気にしてやるからな」と意気込んだ。
 キスをするように先端へ唇を寄せ、そのまま舌先でくすぐるように舐める。舌だけをもう少し奥へと進ませ、血管の集まる部分をぐりぐりとなぞった。まだやわらかいそれはセバスチャンの舌遣いに合わせるように形を変え、唇にぴったりと吸い付いてくる。これほどふにゃふにゃとしたペニスを口に含むのは初めてだったので、セバスチャンは思わず喉の奥で笑った。まるで別物だ。
 しばらくは唇でその不思議な食感を楽しんだけれど、やはり硬くなってもらわないことにはどうしようもない。意を決したセバスチャンは一度咥内のペニスを吐き出し、そのまま顔を根元まで滑らせ、しぼんだままの陰嚢を鼻先でつついた。クリスはあまりフェラチオにロマンを感じないたちなのか、いつもあまり深くまでは咥えさせたがらない。だから、ここまで踏み入ったフェラチオをするのは初めてだった。やるほうに限っての話ではあるが。
 せっかくだからと鼻から息を吸いこんでみると、クリスの匂いというよりは、パンツに移った洗剤か柔軟剤か、あるいはボディーソープか何かの匂いがする。それが妙におかしくて、セバスチャンはまた喉の奥で笑った。現実はポルノ小説より奇なりだ。
 片方の玉を口に含み、吸い上げるように刺激していく。皮膚の下のごろごろとした感触を楽しみながら、同時に右手でペニスを擦り上げた。生理的な反射なのか、裏筋のあたりがぴくぴくと痙攣をはじめる。ついでに左手で会陰のあたりを刺激してやると、クリスのペニスは面白いほど素直に硬さを増した。それに気をよくしながら、よりいっそう刺激を強めていく。
 そろそろか、と顔をあげると、しかしクリス本人はまだ眠りの淵から帰ってきてはいないようだった。けれど興奮はしはじめているのか、どこか寝苦しそうに眉を寄せ、唇をむにゃむにゃとすり合わせている。ようやくいつもの硬さになったそれを満足げに見下ろしたセバスチャンは、満足げな顔でふんと鼻を鳴らし、心なしか赤みを増したクリスの頬を殴る代わりにそっとキスを落とした。
「キュートな寝顔のクソ野郎め。お前の体は正直だぜ」
 旧来的な悪役じみた台詞を吐きつけ、再びクリスの膝のあいだへ跪いた。さきほどより一回りは太くなったペニスを舌の上に迎えいれ、上あごに擦りつけるようにしながら飲み込んでいく。こんなとき、ひとより口が大きくてよかったと心から思う。でなければ、さっきのサイズでも一苦労だ。
 唇をすぼめ、頭を前後にゆっくりと動かす。まるで自分がまるごと性器になったような気分だった。おいおい酔ってるのか、ともう一人の冷静な自分が問うてくるが、正気だぜ、と返すもう一人の自分がまったく正気でないこともちゃんと分かっている。仕方ない。寂しかったんだ。寂しさは人をおかしくさせる。つまり、悪いのはセバスチャンを放って眠りこけたクリスのほうだ。
 そんなふうに自分を正当化しながら、セバスチャンはなおも悪い一人遊びに没頭した。そのうち自分も興奮しはじめ、ジーンズの前が窮屈になってくる。いっそ脱いでしまおうかと腰を浮かせかけたところだった。
「……セブ、ちょっと一から説明してくれないか」
「……グッドモーニング、クリス」
 言った拍子に、硬くなったペニスが唇のあいだからぼろりと飛び出す。クリスは自分の分身と恋人の顔を交互に見たあと、頭痛をこらえるように目元をおさえておおきなため息を吐いた。
「サービスはうれしいんだけど、これはいわゆる強制性交罪というやつでは――」
「ない。まだつっこんでない」
「オウ、それはよかった」
 まだ覚醒しきっていないのか、クリスは目を瞬かせながらぼんやりと己の股間を眺め、事態の把握に努めている。なるほど、すべてをうやむやにするにはいましかなさそうだった。
「――こら、セブ!」
 慌てるクリスを上目遣いに見ながら、反り立ったペニスをじっくりと舐め上げた。溶けかかったアイスキャンディを舐めるように舌を這わせ、右手で陰嚢を包むように握る。そのままやわやわともみ込むように刺激すると、頭上でクリスが息を飲む気配がした。咥えたまま「いいだろ?」と問うと、クリスの手がセバスチャンの後ろ髪をぐしゃりとつかんだ。寝起きのせいか、いつもより熱い。
「いい。いいけど、もうやばい」
 切羽詰まった声がセバスチャンを呼ぶ。セバスチャンは意図的にそれを黙殺し、舐めるだけだったペニスを一息に咥内へ収めた。頬を密着させ、搾り取るように唇をすぼめる。クリスが悲鳴のような短い嬌声を上げた。
「あっ、もう、――セブ!」
 ぐ、と奥へ飲み込んだタイミングだった。扁桃腺のあたりにねばついた液体がまとわりつく感触がある。クリスは慌ててセバスチャンの頭を引きはがそうとしたが、セバスチャンは従わなかった。ちょうど舌の上で受け止められるようにほんの少しだけ頭を引き、目だけを動かしてじっとクリスの顔を見上げる。クリスは興奮と困惑が綯交ぜになったような顔でセバスチャンを見下ろし、結局はそのまま咥内へ射精し続けた。
「……ティッシュ」
 第一声がそれか、と思わないわけではなかったが、とりあえずみるみる気力を失っていくペニスを開放し、どろどろに汚れた舌を見せつけるように口を開く。
「クゥイス、苦い」
「うげえ、はやく吐き出せよ」
 自分で出したくせに、まるで汚物扱いだ。それがなんだかおかしくて、セバスチャンはあえてその申し出を聞かなかったことにした。口を開けたままクリスの膝に乗り、見せつけるように顔を近づける。反射的に顔を背けようとするクリスを捕まえ、「見ろって」と顔を挟むように両手を頬に添える。まるで場末のコールガールにでもなったようなつもりで、挑発するように片頬を歪ませた。なんとなくセバスチャンの思惑を察したらしいクリスが、怒ったような困ったような、でもちょっとだけ興奮したような顔でセバスチャンを睨む。その尖った視線がますますセバスチャンを煽った。
「……おい、絶対飲むなよ」
 クリスが低い声で言う。セバスチャンは笑いながら首を傾げ、はぐらかすようにクリスの頬を撫でた。まだほのかに暖かいそれを舌の上で転がし、頬の裏側や、上あごに飛んだ飛沫まで残さず舐めとる。クリスの喉が低く鳴った。お互いに興奮している。さっきまで気持ちよさそうに眠っていたくせに。そんなふうに詰ってやりたかったけれど、まずはこれを片付けてからだ。
 おもむろに口を閉じ、見下ろすように顎を上げる。そのまま喉を反らせ、すべてを一息に飲み込んだ。
「――ごちそうさま」
 そう言って再び口を開き、事実を突きつけるように舌を伸ばす。
「――うっ……そだろ、マジで飲んだのかよ!?」
「マジだよ。ほら、見ろって」
 興奮した? と笑うセバスチャンの腰を、クリスの両腕がきつく抱いた。
「……正直、した。やばい、やばいな、それ」
「ほんと? はじめて?」
「はじめて」
 ワアオ、とおおげさに驚いてみせると、クリスはすこしだけ怒ったように「君は違うの?」とセバスチャンを詰った。セバスチャンは「やらせたことなら」と正直に答え、許しを請うようにクリスの額に唇を寄せた――が、セバスチャンの唇を受け止めたのは、彼の手のひらだった。
「避けるなよ!」
「だって……」
「君が出したモンだろ!?」
「言うなって!」
 クリスの気持ちも分かる。分かるけれど、釈然としない気持ちで彼を睨む。視線を逸らされまいと両手に力を込めると、クリスのハンサムな顔がべちゃりと縦に潰れた。
「ねえクリス、俺、キスがしたいなあ」
「じゃあまず歯磨きを……」
「……俺は、いますぐ、キスが、したいんだよなあ」
 強調するように文節を区切りながら、クリスの潰れた顔にじりじりと迫る。頑なに結ばれた唇を親指で抉じ開け、綺麗に並んだ白い歯をつついた。犯行予告のように額と鼻先に口付けてやると、クリスは動かない首を必死に横に振りながら、がっちりと閉じた歯の奥で「嫌だあ」と唸った。
「――そんなに?」
 セバスチャンの問いに、クリスが強い力で頷く。価値観も衛生観念も人それぞれだ。セバスチャンは仕方なく肩の力を抜き、潰れっぱなしだったクリスの顔を解放した。
「次に俺よりはやく寝たら、今度は口移しだからな」
 じっとりと睨み付けながら吐き捨てると、クリスはぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。下半身を中途半端に露出させたままで。興奮の余韻がさめきっていないのか、まだわずかに芯をのこしている。
「……なあ、どうする?」
 そこを膝で揉むように押してやると、クリスの喉が期待に鳴った。その緩みきった顔。
「君、そんな顔だったっけ?」
「どんな顔?」
「いますぐエロいことしたいって顔」
 そう言って、クリスの唇、そのはしっこにちょこんと口付けた。ぎゃあと間抜けな悲鳴が上がる。
「キスなしのセックスなんかクソだろ」
「だから、歯磨き!」
「はいはい、するったら」
 おざなりに頷いたセバスチャンは、もう一度クリスの頬に口付け「次こそ、ほんとに口移しだからな」と念を押した。そのまた次は、きっとクリスのバックバージンが失われる記念日になる。そうやってどんどんアブノーマルなセックスに引きずり込んで、いつしかクリスはセバスチャンなしで生きていけないようになるのだ。それまでせいぜい健全なセックスライフを楽しむがいい。